なぜ今、日本企業がAIトランスフォーメーションに取り組むべきなのか
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はじめに
このホワイトペーパーは、事業責任者を対象にAIをビジネスにどのように活用すべきなのかについて書かれています。一方でAIテクノロジーについて詳細は記載していませんし、AIテクノロジーのトレンドを知りたい方は対象ではありません。
第1章では「世界で進むAI活用を前提にしたビジネス」について紹介しています。米国を中心にした先進企業は既に多くがAIを業務として導入していて実運用レベルまで進んでいますが、日本はまだパイロット導入・試行導入のフェーズが中心で実運用までは進んでいません。また世界では、生成AIを活用するのではなくAIエージェントが複数部門の業務を横断したエージェント同士の協調が模索されるなどしていますが、日本では個別最適が多く、ビジネスの全体最適が難しいのです。
第2章では、企業におけるAI活用が世界と日本では温度差がある中、日本企業はどのような課題に直面しているのか?について考察しています。日本企業におけるAI活用は、世界と比べて模索段階にあり、三つの課題が表れています。第1に、戦略的ビジョンがなく、経営戦略とAI導入が結びつかず「効率化」や「コスト削減」といった短期的視点に偏り、長期的な成長や新規事業創出につながっていない点です。第2に、先進技術に長けたデジタル人材の不足とスキルギャップが深刻であり、技術者も社員もAIリテラシーが十分だとは言えない。第3に、失敗を避ける文化や前例踏襲の姿勢が根強く、AI導入による業務変革への抵抗感が大きいことが考えられます。
第3章では、日本企業がAIを活用して業務を変革(トランスフォーメーション)するために何をすれば良いのかについて触れています。この章ではプロセス的な話になります。生成AIを含むAIの活用について、様々な方法で学ぶことはできますが、実際の業務でどのように使えば良いのかわからないという声をよく聞きます。どのようなプロセスでAIを活用して業務を変革すれば良いのかのヒントがあります。
第4章では、「なぜ今」取り組むべきなのかについて述べています。VUCAの時代と言われているように、たとえ今ビジネスに問題がなくても、来月来年にあなたのビジネスを脅かすことが起きる可能性があります。変化に対応するために常に変化・変革する必要がありますが、変化が起きてから対応することでも構いませんが、できれば変化が起きる前、あるいは変化を起こす立場になる必要があります。
最後の第5章では、「AIを導入する」から「AIを経営に組み込む」ことの必要性についてまとめています。オートメーションというとファクトリーオートメーションやロボットという言葉のように製造部門での活用が想起されると思いますが、果たして営業部門、マーケティング部門、バックオフィス部門でのオートメーションがされているでしょうか? 製造現場では秒やミリの単位で改善がされて生産性を上げています。 ホワイトカラー現場ではまだまだ生産性を向上させる余地が多くありますが、残念ながらAIが登場するまでは事実上できませんでした。しかし今のAIはホワイトカラー現場での生産性を劇的に向上させることができます。今の全ての業務をAIに任せることができるか?オフィスから人を無くすことができるか?という大胆な仮説からスタートさせるのも一つの方向性です。人間がすることとAIに任せることを明確に区別することが必要なのです。
第1章 世界で進む「AI活用を前提にした経営」
いま、世界の企業経営は大きな転換点を迎えています。そのキーワードが「AIの活用を前提とした経営」です。ここでは「経営」と表現していますが、業務レベルでの活用も含む広義の意味で使用しています。 デジタルトランスフォーメーション(DX)が競争力の差を生み出したように、これからの10年は「AIをどれだけ業務に組み込めるか」が企業の生死を分ける時代になるといっても過言ではありません。2025年7月2日に米マイクロソフトは最高益を生み出したにも関わらず、世界の全従業員の4%に相当する約9,000人社員をレイオフすると発表しました。AIへの投資を増やす一方でコストの抑制を進め、人の業務をAIが代替し始めたのかもしれません。業務効率向上を常に探求するのは企業であれば当然のことですが、米マイクロソフトの業績は好調で、25年1〜3月期の純利益は四半期で過去最高にも関わらずAI関連の設備には投資し、人員は減らすという判断になったわけです。それほどまでにAIが企業に与えるインパクトは大きいのです。また、世界最高峰のコンサルティングファーム、マッキンゼーが過去18ヶ月で5,000人以上、全従業員の10%超を削減するというニュースもあり、生成AIがコンサルタントの働き方を根底から変えて生産性を向上させるとしています。 しかし、マイクロソフトやマッキンゼーが決定した生成AIがプログラマーやコンサルタントの代替になるという文脈だけではAI活用の衝撃を見誤ります。 生成AIがデータ収集や資料作成といった業務を自動化したり、意思決定を支援するだけではないのです。本当の衝撃は、AIが人間のやっていた業務の仕組みや方法の全てを代替する可能性があるということなのです。
世界の先進企業が描く未来像
米国や中国を中心とした先進企業は、すでにAIを単なる効率化ツールとしてではなく、経営戦略の中核に据えています。たとえばアメリカのテクノロジー大手は、生成AIを組み込んだ検索・広告・クラウドサービスを次々と市場に投入し、顧客体験そのものを変革しています。また製薬業界では、創薬プロセスにAIを導入することで研究開発のスピードを飛躍的に高めています。金融業界では、AIによるリスク分析や投資判断の高度化によって、市場優位性を強化しています。
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これらの企業に共通するのは、「AIを導入するかどうか?」ではなく「どのようにビジネスに組み込むか」を議論の出発点としている点です。なぜならAIがビジネスを効率化し売上や利益を向上させるのは当たり前だからです。ここに疑問を挟む余地はありません。このような観点から、業務オペレーション、顧客体験、マーケティング、研究開発、人材マネジメント、財務会計など、あらゆる場面でAIを活用したビジネスプロセスあるいはビジネスモデルの再設計が進んでいるのです。
AIがもたらすインパクトは「効率化」だけではない
AI活用は、コスト削減や業務効率化に効果的です。例えば、ホテルや輸送、レストランなどのキャパシティビジネスは稼働率が重要ですが、AIを活用して稼働率をアップさせることが業務効率化になりますし、運輸や配送などの最適ルートをAIで最適化できれば業務効率化になるかもしれません。もちろんマーケティングオートメーションやセールスフォースオートメーションにおいてAIを活用すればより現在のセールスやマーケティング活動を最適化できる可能性があります。このような業務効率化にAIを活用するのはとても大切ですが、むしろ重要なのは「新しい価値の創出」です。 例えば、ネットショッピングサイトや予約サイトにおいて、一人ひとりの顧客に合わせてパーソナライズされたサービスをリアルタイムで提供することや、LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)を活用して、「◯月◯日で、予算◯円以内で、◯平米以上で、シングルベッドで、駅から◯メートル以内のホテルを予約して」とプロンプトを投入することで簡単に予約ができたり、 ホテル予約サイトとレンタカー予約サイトと飛行機予約サイトなどの旅行や出張に関連する複数の関連するWebサービスと連携してワンストップサービスを提供することは「新しい価値の創出」だといえます。あるいは、社内外の膨大なデータから洞察を導き、マーケティングやセールスを中心とした経営判断の精度とスピードを同時に高めることができたり、これまでとは異なる需要予測や市場シミュレーションを可能にして新しいビジネスチャンスを作り出すこともできるかもしれません。 また、AIが意思決定を支援するだけではなく、ある程度のルール内でAIが自動的に何かの業務を動かすことさえ可能になるのです。こうした変化は、AI活用は、単なる業務改善ではなく、企業のポジショニングや競争優位そのものを作り変える力を持っているわけです。
AI活用を前提したビジネスにするためには何が必要か?
AI活用を前提したビジネスとは具体的に何が必要なのでしょうか。ポイントは「AIを中心に据えること」「全体的な取り組みにすること」「人材を育成すること」の3つです。この3つが揃って初めて、AIトランスフォーメーションは企業の持続的な競争力となります。
AIを中心に据えること
新しいビジネスプロセスやビジネスモデル、あるいは既存のビジネスプロセスやビジネスモデルを刷新する際に、AIを後付けで加えるのではなく、最初からAIを組み込んだシナリオを描くことです。
極端な話「既存業務の全てをAIで代替できないか?」という仮説から始めることも良いかもしれません。2022年11にOpenAI社がChatGPTをローンチし、2023年には生成AIブームが巻き起こり、テクノロジー業界や消費者の行動を急速に変えていきました。登場当初のChatGPTと現在のChatGPTでは精度が異なりますし、現時点ではテキスト、画像、動画、音声、音楽、プログラムコードなどを生成するAIが登場し、今後も更なる進化を遂げるでしょう。
つまり、現時点でできるシナリオではなく、ある程度妄想でも仮想でも良いので、最初からAIを組み込んだビジネスシナリオやビジネスプロセスを考えることです。
全体的な取り組みにすること
まずは、特定業務や特定部門のPoC(Proof of Concept:コンセプトの実証)をすることになりますが、基本的には全体的な取り組みにする必要があります。
なぜなら、AIを活用すれば意思決定、行動、分析などのスピードが圧倒的に早くなりますので、一部の部門や一部のプロセスが停滞することで、それがボトルネックになってビジネス全体を刷新できないからです。前述したようにビジネスシナリオやビジネスプロセスの全てにおいてAI活用をすることを前提にして検討と導入を進めるのが良いのです。
人材を育成すること
ここでいう人材はITやAIを使える人材を育成しようということではありません。今のところ独自の知性と意思を持って行動することのないAIは所詮ツールです。この便利なツールを使いこなせるか否かがポイントになります。極端な言い方かもしれませんが、能力が低い人材が扱うAIが出力するパフォーマンスは自ずと低くなります。逆に能力が高い人材が扱うAIが出力するパフォーマンスはとてつもなく高くなります。つまり、現在の人材に基礎的な能力がなければAIを効果的に活用することができないということです。ですから、AIを高いレベルで活用できる基礎的な能力がある人材、創造性が高い人材を育成する必要があります。
第2章 日本企業が直面する課題
戦略的ビジョンの欠如
2025年現在、多くの日本企業は、AIの活用が部分的で、実証実験(PoC)の段階にとどまるケースが少なくありません。ChatGPTやGeminiなどの生成AIの活用が話題となり、一部の企業で試験的な導入が進み、社内における文書作成やプレゼンテーション作成、ビジネスプランなどを作成する際に生成AIを活用しているシーンは多くあります。 総務省は、2024年版「情報通信白書」で個人・企業の生成AIの利活用について、国内外を比較した調査結果を7月5日に発表しました。それによると企業に対する調査で、日本の生成AIを業務で利用している割合は46.8%で、中国(84.4%)、米国(84.7%)、ドイツ(72.7%)に比べて低い数値となっています。

また、企業の生成AI活用方針についても、日本の「積極的に活用する方針」の回答は15.7%と低く、中国(71.2%)と大きな差があります。2025年9月に発表された日経BP社の独自調査では、日本企業の従業員が「我が社の生成AI(人工知能)活用は非常に進んでいる/進んでいる」と感じる割合は14.4%で、「遅れている/非常に遅れている」と感じる割合は34.1%でした。有料版の生成AIは個人的や部門単位では活用しているとは思いますが、企業全体で活用している割合ので調査データはまだありませんが、それほど多くないのではないかと推察されます。

生成AIの活用がこのような状況ですので、AIを活用して、ビジネスプロセスやビジネスシステムを効率的にしたり転換することはなかなか進まない状況です。そもそも「業務で使用中」という観点はAIを「効率化」や「コスト削減」のツールという視点でしか見ていないとも言えます。AIは業務効率化を超えてビジネスを変革するものだと捉えるべきなのです。
なぜ、日本企業はAIをビジネスに活用することができていないのでしょうか? なぜAIトランスフォームが進まないのでしょうか?
それは「経営層がAIを戦略レベルで捉えていない」からです。前述の日経BP社の独自調査でも、従業員が生成AI活用について「遅れている」と感じる企業では、経営者自身が生成AIの活用をしておらず、AIの活用方針も示していないなど、経営者のAIに対するコミットメントが「進んでいる」企業に比べて低調だったそうです。生成AIの活用で言えば、有料版の生成AIの契約を全従業員分のライセンスを購入しているでしょうか?特定の部門だけでしょうか? 経営者自身が率先して使うことはもちろんですが、全従業員にも使わせる必要があります。もしかすると、うちの従業員に生成AIを使いこなすことができないと思っていませんか? 「生成AIを使いこなす方法が分かったので活用できる」のではなく、「生成AIを使ってみると使いこなす方法が分かる」のです。 ですから、まずは有料版の生成AIの契約を全従業員分のライセンスを購入しましょう。もし、ライセンスの購入費用が課題であれば当社までお問合せください。
現在は従業員一人ひとりにパソコンが与えられて仕事をしているのが当たり前ですが、このような環境になったのは1990年代末頃です。1995年にWindows95が発売され高性能で安価なパソコンが市場に出回るようになり、インターネット環境も整備され始め、業務における情報収集やコミュニケーションの幅が広がりました。信じられないかもしれませんが電子メールが会社で普通に使われるようになったのは1990年代後半なのです。驚くようなスピードで社内にパソコンが普及し社内外の人々と電子メールでやり取りするようになったのです。今、パソコンなどの情報機器がないビジネスなど考えられません。 そして2023年に生成AIの代表でもあるChatGPTを多くの人が使い始め、2024年には企業でも使い始めています。1990年末とは全く違うスピード感で普及浸透しています。 パソコンや電子メールが普通になったように10年後にはAI活用は普通になります。 業務で生成AIを使って効率化する以上のことが起きます。電子メールの返信テキストの作成支援ではなく自動返信するようになります。営業部員やマーケティング担当者がSFAやCRMを使う際にAIを活用するのではなく、営業部員やマーケティング担当者の代わりにAIが意思決定しメールを配信し、アポイントを取るようになります。 30年前の経営者が戦略的にパソコンやコンピューターシステムを導入して活用したように、今の経営者も戦略的にAIを導入し活用する必要があります。 そして、AIはIT化やDX化を凌ぐ可能性があります。デジタルトランスフォーメーション(DX)と言うものの単にIT化に過ぎなかったという批判もありますが、AIトランスフォーメーション(以下「AX」と言います)は、単にAI化に過ぎなかったということになりません。ITは人間が設計した以上のことができませんが、AIは人間が設計した以上のことができますし、インプットデータとアウトプットデータを用いて成長することができることが大きな特徴です。 本当に極端は話かもしれませんが「全ての業務をAIに任せるにはどうすれば良いのか?」と言う問いからスタートするのが戦略的ビジョンです。 もちろん、今のA Iテクノロジーでできるわけありませんが、できる部分、代替できる部分は多くあります。そして、I T化をきっかけに業務をリエンジニアリング(BPR)したように、AI化をきっかけに業務をリエンジニアリングする必要があります。
人材不足とデータスキルギャップ
革新的な経営者はすでにAIの可能性に目を向け、自身による活用はもとより社員によるAI活用を推進しています。しかし全社的にAXを進めることに躊躇しているかもしれません。 その理由として考えられるのは①AIを前提としたBPRができる人材の不足、②AI人材の不足、③AIを活用するためのデータやデータ基盤の準備不足です。これらについて解説します。
AIを前提としたBPRができる人材の不足
AIを使わなくてもBPRは企業にとって必要な取り組みですが、改善と異なり常に取り組むものではありません。BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)は1993年に、元マサチューセッツ工科大学教授のマイケル・ハマーと経営コンサルタントのジェイムス・チャンピーが提唱して世界的に広まった考え方で、コスト、品質、スピード などのパフォーマンスを劇的に改善するために業務プロセス全体を根本的に見直して再構築することです。個別の業務改善とは異なり、職務、組織構造、情報システムなどを包括的に見直す包括的な改革です。 「劇的に」と表現されているように人員や業務量を半分以下になるほどの改革であることがポイントです。現在、日本の企業経営者の50%以上が「人材不足が課題」だと認識しています(帝国データバンク:2025年7月時点)が、これは課題でもありますが、AI活用のチャンスでもあります。AIで代替できるような業務があれば積極的に代替させることで人手による業務量は減りますし、AIを活用したBPRをして抜本的に変革することで業務量が減らせることができます。 BPRはAIテクノロジーを全て知っている必要はありません。それよりも業務全体を俯瞰して、ゼロベースで包括的に考えることができる人材が必要です。このような人材は、既存業務への疑問、あるべき業務の姿を想像しなければなりません。当然ながら社内でBPRに取り組むのが必要ですが、AI活用を前提に考えると、FDE(Forward Deployed Engineer)という役割のエンジニアも検討すべきだと考えます。 FDEは、顧客の現場に入り込み、顧客の業務内容を深く理解し、技術とビジネスを橋渡しして、課題解決やビジネス開発ができるシステムの開発・導入・運用を支援するエンジニアです。 特徴的なのは顧客の現場に入り込み、成果が出るまで責任を負うことです。従ってFDEには高い技術力に加え、顧客とのコミュニケーション能力やビジネス理解が必要となります。 一方、AIを使いこなせる人材が社内にいないという課題もあります。これについては一朝一夕には解決できません。社内にAIを活用できる人材は当然必要ですが、まずはAIを活用できる人材の知識やノウハウ、能力を外部から調達して、早急に知識移転・能力移転をすることです。これまでは、システムインテグレータと呼ばれるシステムを開発構築運用する企業にシステムの開発を任せていましたが、これでは社内にシステムを開発する知識やノウハウ、能力が手に入りません。できれば、AIの知識・ノウハウ・能力を移転することを前提とした企業(FDEを擁する企業)と共にAXに取り組むことが良いと考えられます。そのためにも社内に基本的な知識ノウハウがある人材の確保を急ぐ必要があります。
AI人材の不足
前項で、社内に基本的な知識ノウハウがあるAI人材の確保を急ぐ必要があるとしていましたが、具体的にどうすれば良いのでしょうか?ここでいうAI人材は生成AIを活用できる人材ではなくAIシステムを開発できる人材を意味しています。 ですから、ここでは現時点でITスキルがあるエンジニアが社内にいればAIを使ったシステムを開発できる高度人材を育成するアプローチを提示します。 第1に基礎スキルの獲得が必要です。 AIを社内システムとして開発するためにAIエージェントやMCPサーバーを開発する必要がありますが、これらの開発には幅広い基盤技術の理解が必須です。例えば、プログラミングで言えば、Python、JavaScript、TypeScriptなどが必要で、クラウド基盤としてはAWS、GCP、AzureなどのIaaS・PaaSの運用ができる必要があり、APIとマイクロサービス設計としてはREST、gRPC、Docker、Kubernetes、データ基盤としてはSQLおよびNoSQL、そしてAI基礎として機械学習フレームワークであるPyTorch、TensorFlow、エージェントフレームワークとしてLangChain、LlamaIndex、Haystackなど、自然言語処理としてRAG(Retrieval-Augmented Generation)が必要です。 これらの全てにおいて熟達する必要はないかもしれませんが、AIエージェントやMCPサーバーを開発し社内業務を代替するためには、このような広い知識を持ったフルスタックエンジニアを育成する必要があります。これらの高度技術を、これまでエンジニアリング、プログラミングをしてこなかった人材に求めるのは不可能ですから、少なくとも過去の経験としてエンジニアリング、プログラミングをしてきた人材を対象にしているのは言うまでもありません。 第2に基礎スキルの強化が必要です。 FDEは顧客の現場に入り込み、顧客の業務内容を深く理解し、技術とビジネスを橋渡しして、課題解決やビジネス開発ができるシステムの開発・導入・運用を支援するエンジニアですので、AI技術の移転元としては最適です。つまり、社外のFDEを調達して、社外FDEと社内の高度人材でチーム組成して技術を移転することです。移転が終われば社内の人材がFDEとなり、その社内FDEが社内の次世代人材を育成すれば良いのです。
AIを活用するためのデータやデータ基盤の準備不足
AIを有効活用するにはデータが不可欠ですが、日本企業ではデータが部門ごとに分断されているケースが目立ちます。営業部門はCRM、製造部門はCAD/CAMやIoTやPLM、管理部門はERPといった具合に、システムがサイロ化しており、横断的に統合されたデータ基盤が存在しないのです。 さらに、紙文化やExcel文化が根強く残っている企業も多く、大きなシステムを補完するためにマクロ満載のExcelシートを運用している会社も多いです。データが電子化されていない、あるいは非構造化データとして蓄積されている状況が現実だということです。AIはデータを必要としますが、そのデータが欠けているために本格活用に踏み出せないと考えている経営者やリーダーも多いと思います。 しかし、AIも進化しています。10年前であれば機械学習・深層学習するために、データの整備は必要でしたが、今は必要ありません。生成AIを活用しているとわかるように、インターネット上の様々なデータ形式を読み込んで学習しているように、もはや構造化されたデータを整備する必要すら無くなっているのです。 「データは企業の資産です。構造化されていない活用できないデータは資産ではありません」というのは昔話です。現在は、どのような形式であれAIが読み取れる電子データであればそれは企業の大切な資産として扱うことができます。もちろん、AIにとってもメタデータ(データのラベル、データの意味)の定義は必要だということは追記しておきます。
組織文化と変革への抵抗
もしかするとAI活用ができない最大要因は日本企業の「リスク回避傾向」かもしれません。 この背景には、制度的な要因と組織文化的な要因があります。この慎重な姿勢は、企業の安定性を保つ一方で、今日のグローバルな競争環境における成長機会の逸失という課題にもつながっています。
制度に根差す安全志向
現在は実施されていない終身雇用制度や減点方式の人事評価制度であっても、従来の日本型経営の基盤であったこれらの制度が経営者や社員の行動様式に影響を与えています。現在でも労働基準法に基づき雇用を維持するという暗黙の了解を持ち、人事評価制度の運用が減点方式だとしたら従業員は挑戦することなく失敗を避けるようになります。失敗を恐れるあまり成長のための投資よりも持続的な活動や安定性を優先する安全志向になりやすくなります。 近年では、長期的な目線での成長というイメージも揺らいでいます。文部科学省 科学技術・学術政策研究所のデータを見ると、米国の企業に比べて、未来の成長力を左右する研究開発費や設備投資の増加率が低く、短期的な収益を重視するようになった海外企業とは異なり、日本企業は短期的にも長期的にも必要な投資を踏み出せない慎重さが目立っています。
日本特有の組織文化的な壁
リスク回避の傾向は、企業の文化にも深く関係しています。 第一に「合意形成重視」の意思決定プロセスです。日本の企業文化では「稟議」や「根回し」を通じて、関係者全員の合意を得ることを重要視します。これは、意志決定の過程でミスが少なくなり、品質や信頼性が保たれるというメリットはあるものの意思決定に多大な時間を要します。市場の変化に迅速に対応する必要がある現代においてリスクを取って新しい試みに挑むことを難しくしています。 第二に、「ゼロリスク志向」です。新しい事業やプロジェクトの提案があった際、上層部や意思決定機関はその成功の可能性よりも「失敗しないことの裏付け」や「前例踏襲」など「うまくいかないリスク」にフォーカスして成功するエビデンスを求める傾向があります。生真面目な国民性とも相まって、ネガティブな視点で提案の芽を摘んでしまい、結果的に「リスクを取らない経営」となります。 第三に「日本特有の集団主義的な文化」です。同質性や同調性が高いと既存の価値観や慣習に異を唱えることが難しくなり、変化や革新よりも「従来通り」「和」「既存のルール」「誰も損しない」を守ることが優先され、組織全体が保守的になってしまいます。
第3章 AIトランスフォーメーションを導入するために
この章ではどのようなプロセスでAIを活用して業務を変革すれば良いのかというヒントを10のステップに分けてお伝えします。
ステップ1:AI活用の目的を明確にする
何をするにしても目的と目標、そしてそれらを達成するための手段を設定することが必要です。 例えば、「XXXという課題を解決する」、「XXXという業務をなくす」、「納期を半分にする」、「人員を半分にする」などです。様々な経営課題を検討できますが、経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報に直結することでそれらの品質、コスト、スピードをどう改善するかを検討します。 このステップでは、KGI(Key Goal Indicator)やKPI(Key Performance Indicator)、CSF(Critical Success Factor)、シナリオについて共有し合意形成することが求められます。
ステップ2:業務棚卸しと“AI当たりどころ”特定
このステップでは3つのSであるSMALL、SPEED、SUCCESSを意識します。小さなアクションで素早く成果が出て成功という果実を得ることです。そのためにも効果が大きく実装しやすい領域を特定することです。本質的にはこの業務を削減したい、最終的にはこの業務を変革したいというような思いがあると思いますが、大きなハードルに挑む前に、まずは小さく、早く、成功させることです。 効果が大きく実装しやすい領域を特定するために、業務フローの可視化と分解、ABC(活動基準原価計算)の実施、エラー率やコンバージョン率などの比率の計測など定量的でわかりやすい業務を特定します。もし、業務が明確化され可視化されていないのであればこのタイミングで業務の棚卸しが必要です。このステップの成果物は数個のユースケースを選出し、それぞれのユースケース毎にもし達成した場合、どのようなインパクトがあるのかをスコアリングします。
ステップ3:データ・ITインフラの可視化
このステップでは、既存保有データの所在、定義、品質、権限、セキュリティ、データストア(データベース、データレイク、データウェアハウス、エクセルなど)API接続性などを棚卸します。AI活用に絶対的に必要なのはデータであるため、データに関する情報を整理することが目的です。
ステップ4:PoC(Proof of Concept)の設計
このステップの目的はPoCを設計することです。PoCは前述の3つのSを具体化するものです。小さく早く作って成功させることです。重要なポイントは、「PoCに失敗はない」ということです。あるのは想定通りだったという成功と、想定通りに行かなかったという事実のみでそれがあるからこそ次段階への成長につながります。 ステップ2で選出したユースケースの中からPoCができそうなユースケースを一つ選び、定量的な成功基準を事前に設定します。成果物としてはPoC計画書で、範囲、モデル、ツール、評価方法などを記載します。
ステップ5: PoCの実施
このステップでは実際にPoCを実施することが目的です。実際にAIエージェントを作る、MCPサーバーを開発する、AIエージェントでワークフローを自動化する、開発したアプリケーションがAIプラットホームで稼働する、RAGの開発などです。成果としては「実際に動くプロトタイプ」です。ドキュメントもあった方が良いですが、接続ドキュメントなどPoCレベルでは簡易なドキュメントで良いと考えます。このステップでは業務で“実際に回る”最小解を作ることで、実際にAIを活用するとこんな効果があるのだという実感が必要です。 このPoCの実施では選択したユースケースで実施したので、次のPoCでは選択しなかったユースケースに取り組むのも良いですし、同じ手法で適用領域の拡大、データの拡大などスケールさせることを考えます。
ステップ6:リスクデザイン
PoCでコンセプトが実証できたのであれば実際のビジネスに応用することを始めます。実際にビジネスにおいては安心して運用する必要がありますので、個人情報、センシティブ情報、エラー時の対策、非常時のガイドライン、監査ログなどを設計して作成する必要があります。
ステップ7:AI活用のための体制づくり
このステップでは、PoCを終えて本格的に社内展開するための体制づくりをします。具体的には、ユースケースの追加(適用領域の拡大、データの拡大など)、AIエージェントなどアプリケーションの開発、AIプラットホームの整備・拡張など、AIシステムを開発する人材と体制の整備と強化をします。他方で開発されたAIを運用する人材使う人材を整備強化する必要もあります。あるいは人員削減を目的としたのであれば、配置転換案などを検討することも必要です。 このステップの成果はAIの開発アプリケーションの数やエンジニアの数や質、既存アプリケーションの再利用率、社外FDEではなく自社における内製比率などが指標となります。
ステップ8:パイロット版の開発・運用・学習
このステップではいよいよ実際の業務にAIを導入するためにAIシステムを開発して運用を開始します。実業務においてAIシステムを開発して運用するとはいえ、パイロット版なので小さな規模、小さな範囲で、何かがあったとしてもすぐに対処できる業務からスタートします。このステップの目的は、現場業務での開発・運用・定着・改善を行い、実業務におけるAI導入の実際を実行して学習することです。開発フェーズ、運用フェーズ、開発者・利用者からのフィードバック、評価と改善のサイクルの確認を行います。成果物として運用手順書やAI導入結果報告書、FAQなどが考えられます。
ステップ9:本格展開とスケール
このステップではパイロット版ではなく、本格的に実業務でAIを使うためにAIシステムを開発し運用します。この本格展開で投資回収という視点でAI活用を評価します。AIシステムの開発費用と得られるリターンを費用算出し比較します。想定したROIによってシステム開発手法や適用業務範囲などを修正してROIの最大化を狙います。このステップでは、AIシステムの開発、既存システムとAIシステムの協業や統合、AIシステムの権限制御の監視、エラーハンドリング、SLAの設定などをする必要があります。評価としてはROIが最適です。
ステップ10:継続改善
最後のステップでは、開発したAIシステムを継続的に改善することです。AIシステムの開発で用いたLLMやRAGのモデルの更新も必要かもしれません。AIシステムは業務変革が主目的ですが、導入後は業務の一部となりますので常に改善が必要です。作って終わりではなく持続的に改善していく必要があります。評価レポートや改善バックログ、モデル更新計画を成果物とし、ROIのモニタリングやシステム品質の改善、エラーや障害件数の低減をチェックします。
第4章 「なぜ今」取り組むべきなのか
日本は人口減少と高齢化により労働力が急減し、OECD諸国の中でも生産性が低い水準にあります。人手不足と複雑化する経営環境の中で、生産性革命が不可欠です。世界ではAIを経営の中核に据えた変革が進む一方、日本は効率化レベルに留まっています。AIは誰でも使える段階にあり、早期導入企業が先行者優位を得ます。今は技術も環境も成熟し、試行錯誤しながら学べる絶好の時期です。AXは「やるかどうか」ではなく、「今やるか」が問われています。
構造変化がもたらす「生産性革命」
公益財団法人日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2024」によると日本の時間当たり労働生産性は、56.8ドルでOECD加盟38カ国中29位と低い水準となっています。また、日本の一人当たり労働生産性は、92,663ドルでOECD加盟38カ国中32位とこちらも低い水準です。 人口減少と少子高齢化によって、生産年齢人口は1995年をピークに減少を続け、2030年には6,700万人台にまで落ち込むと予測されています。つまり、国全体の「働き手」が25年前よりも1,000万人以上減るということです。これは、企業にとって避けようのない制約条件となっています。一方で、企業が直面する課題は年々複雑化しています。顧客ニーズは多様化し、商品ライフサイクルは短縮し、グローバル競争は激化しています。従来のように「人を増やして努力でカバーする」ことは、もはや成り立たなくなっています。 つまり、日本経済は今、大きな転換点を迎えていて、正しく「生産性革命」が絶対であり、労働集約型の経営から、知識集約型・創造集約型へのシフトが不可欠です。 その中心に位置するのがAIですがAIは、人手不足を補うための「代替技術」ではありません。むしろ、人間が持つ創造性・判断力・共感力を支える「増幅技術」です。 例えば、バックオフィス業務の自動化は単なる効率化ではなく、社員がより創造的な仕事に時間を使えるようにする“知的再配分”のために行うのです。営業やマーケティングでも、AIが顧客データを分析し、よりパーソナルな提案を可能にすることで、顧客体験の質を高められます。 AIは「人を減らす」技術ではなく「人の価値を最大化する」技術なのです。 これからの日本企業に求められるのは、生産性を「人件費削減」ではなく、「人の潜在能力を引き出す」観点で再定義することです。
グローバル競争の構図が変わった
世界では、AIを中心とした第4次産業革命とも言える波が加速度的に広がっています。 米国ではGoogle、Microsoft、OpenAI、Amazonが中心となり、AIを経営と製品の両輪に位置づけ、事業構造を根本から変革しています。中国ではBaidu、Tencent、Alibabaといった企業が国家戦略の一環としてAIを推進し、教育、金融、物流、医療など、あらゆる分野で社会実装が進んでいます。これに対して日本企業は、依然として「様子見」「慎重」という姿勢が目立ちます。第二章でも述べたようにAIを経営に本格導入している企業は多くありません。多くがRPA(定型業務の自動化)やチャットボットなど、効率化レベルの活用にとどまっており、AIを新しいビジネスモデルや収益源に結びつけている企業は少ないのが現実です。これが単なる導入スピードの問題だと捉えても良いかもしれませんが、AI活用の差は、企業の競争優位そのものを決定づける要素になります。あらゆる業種業態でAIが活用されAIを単なる「ツール」ではなく「経営戦略の一部」として扱うと違った結果が得られます。すでに、AIをどう使うかではなく、AIを使って何を変えるのかが問われているのです。 日本企業がグローバル市場で再び存在感を取り戻すためには、AIを「経営の中核」として再定義する必要があります。
誰でも使える時代の到来
IBMのワトソンなどのAIサービスは大企業や研究機関にしか使えないほど高額でしたがOpenAI社のChatGPTは無料でも使えるため個人でも使えます。もちろんその他の生成AIも概ね無料で使えますし、有料版であっても高額ではないため多くの企業にとってAI活用は身近なものになりました。 専門知識がなくても、ビジネスパーソンがAIを“対話的に使いこなす”ことが可能になったのです。 また、Google、Microsoft、AWSなどのクラウドプラットフォームが、AI開発の環境を整えたので、企業は自社でサーバーを構築せずとも、クラウド上で安全にAIモデルを実装できます。 そして、AIはすでに「業務の中に自然に組み込まれる段階」に入っています。 誰しもが、AIを使って、戦略立案、分析、文章作成、プレゼン作成など、ホワイトカラーが時間をかけて実施していた知識業務をわずか数秒でできるようになりました。 AIはもはや未来のテクノロジーではありません。今日から誰でも始められる「実装可能な経営インフラ」になっているのです。
先行者優位なポジションを取る
なぜ「今」取り組む必要があるのかという大きな理由は「先行者優位なポジションを取れる」ことです。常に競争環境に置かれている企業は、競合他社に対して差別化が行われ一歩でも先に進むため、新しい取り組みや革新をして市場を作り顧客を作る必要があります。後手に回れば、AIを武器にした競合に市場を奪われる可能性すらあります。 AIはうまくいくのかどうかわからないテクノロジーではありません。現在、ハイプサイクルではピークに達しており、イノベーションサイクルにおいてもキャズムを超えたと考えられます。革新的な企業、大手ハイテク企業は、AI技術を取り入れてさまざまな取り組みを行い一定の成果を出しています。企業はビジネスにAIをどう組み込むか、また市場でのイノベーションにどう対応するか早く決断する必要があります。 しかし、2025年7月にマサチューセッツ工科大学(MIT)が発表した「The GenAI Divide: State of AI in Business 2025」の調査レポートによれば、企業がAIに投資しても95%の組織は効果を感じずに終わるとしています。一方、効果があり数百万ドル規模の価値を創出した企業は5%あります。では効果を出した5%の企業は何をしているのでしょうか?効果を出した5%の企業に共通するのは、明確な戦略と段階的なアプローチです。前章(第3章)で解説した10のステップは、まさにこの5%の企業が実践しているプロセスを体系化したものです。小さく始めて、学びながら拡大していく―このアプローチこそが成功の鍵となるのです。 基本的な話になりますが、LLMは、大量のインターネット上の記事や書籍など、膨大なデータを学習し、人間のように自然な言語を理解・生成できるAIモデルの一種で、文章の要約、質問への回答、翻訳、文章作成、プログラミングのサポートなど、多様な自然言語処理タスクを高い精度で実行できます。ChatGPTやGeminiは、LLMの技術を活用して開発した対話型のテキスト生成サービスで、LLMの活用事例の一つです。 生成AIは、正しさよりも人間らしさが追求され、人間にはできない量とスピードで様々な処理ができるのですが、学習能力が格段に高いかというとそうではありません。もちろんこれらは修正される可能性は高いですが、現時点ではAIは単純作業を早く大量に処理できますが、複雑で長期的なプロジェクトは向いていません。 つまり、成功した5%の企業はAIを限定的に正しく使っているということです。 これは、AIが既存ビジネスプロセスに深く統合できているともいえます。文書作成や要約などの業務にAIを活用するだけではなく、現行システムの内部にAIを組み込むことです。 顧客毎のクリックスルーデータを分析し顧客に最適化されたUIに瞬時に変更することや、マーケティングオートメーションやセールスフォースオートメーションの適切なタイミングでAIが自動的に対処するなど、既存の業務をAIに任せることができます。 効果的にAIをツールとして活用している企業は、既存ビジネスプロセスやビジネスフローに当てはめるのではなく、AIの特性を活かせるようにビジネスプロセスやビジネスフローそのものを進化させています。AI活用はまだ黎明期ですので、早期に取り組んで基盤を整備した企業が業界をリードすることになるのです。 一方で、競合他社が先行してAIを活用した後に取り組むことになれば、競合他社の取り組みを参考にできるという効率化は望めますが、競合他社に追いつき勝利するためには、人材獲得、ノウハウの蓄積、AIプラットホームの整備など先行他社より多くのコストが必要となります。 また、当然ながら、株主や投資家は企業の生き残りを賭けるためのAI投資への取り組みを着目しています。一番最初に取り組まなくてもよいですが、多くの人が対応した後だと株主や投資家への影響が大きくなり、外部からの圧力も強まる可能性があります。 つまり、AIトランスフォーメーションは「やるかやらないか」ではなく、「今やるべき」というテーマなのです。
「今」が最も学びやすく、失敗しやすいタイミング
多くの経営者がAI活用を軽視しているとは考えにくいと思います。しかし、いつどのようにAI活用をすれば良いのか?というタイミングが分かりづらいのかもしれません。 新しい技術は、早すぎても未成熟で効果が出づらく技術が成熟するのに貢献するだけで成果を得にくいということもありますし、遅すぎれば競争優位を失います。 では、今はどの段階にあるのでしょうか? 答えは明確で今がちょうどいい時期だと考えます。AI活用の実装と学びを両立できるフェーズに来ています。AI技術は十分に成熟していますし、ツールやクラウド環境も整備されました。 同時に、セキュリティが考慮され、コンプライアンスやガバナンスや倫理基準も整いつつありますので、安心して試せますし小さな失敗もできる環境が整っているのです。 もちろん成功することが大前提ですが「失敗含みで取り組む」というのも大事な視点です。 AI活用の価値は、まずはAIを活用して業務効率を向上させること、次にAIを活用してビジネスそのものを変革すること、最後にAI導入という試行錯誤を通じて社内ナレッジを蓄積することです。 PoCやパイロット導入を通じて、小さな成功と失敗を重ねることで、社内のAI活用への理解・文化・スキルが醸成され、組織全体の「AIリテラシー」が高まっていきます。 AIを導入する企業とそうでない企業の差は、数年後には取り返しのつかないほどの格差になります。 それは単なるAI活用の差ではなく「学びの量と質の差」として現れます。だからこそ今こそ、小さく失敗できるうちに始めることが最も合理的な選択なのです。
市場機会(新しい価値創出のタイミング)
AIは既存業務の効率化だけでなく、まったく新しい市場や新しい顧客体験を生み出す可能性を秘めています。これまでビジネスインテリジェンスツールで分析した結果を人間が意思決定していたかもしれませんが、今後はAIが多面的に分析し、意思決定した上で実際に業務を動かします。ショッピングサイトも顧客ごとに最適化されたプロモーションや購買体験をリアルタイムで提供し、これまで長くかかった創薬プロセスを劇的に短縮する可能性があります。すでにレントゲンやMRIデータをAIが診断することで人間の診断より精度が高くなっています。このようなことはすでに実用化できます。「AIでできないか?」「AIで代替できないか?」という問いから始めれば日本企業はもっと大きな市場機会を得られ、もっと大きな価値を創出できます。いま参入すれば「新市場の先行者」となれる可能性があります。市場が形成される「初期段階」で参入することは、あるいは市場を形成することが競争優位を築く最大のチャンスです。
AIトランスフォーメーションは「やるかどうか」ではなく、「いつやるか」の問題です。 その答えは明確で「今」始めることこそが唯一の選択肢です。
第5章 まとめ ― AIを「導入する」から「経営に組み込む」へ
ここまで見てきたように、AIは単なる業務効率化のツールにとどまらず、経営のあり方そのものを変える力を持っています。海外企業はすでに「AI前提経営」に移行しつつあり、日本企業がこの流れに乗り遅れることは、単なる一時的な遅れではなく、長期的な競争力の喪失を意味します。 企業にとって、全く新しいビジネスを創出したり、テクノロジーイノベーションを起こすことは簡単ではありません。多くの挑戦があり、その中から残った僅かなテクノロジーやビジネスが世界を変えるのです。日本の企業はこのような取り組みが不得手かもしれません。しかし、モノづくりの現場で自動化を推進して高品質で大量生産をしてきた知恵と知性は日本人ならではだと思います。日本企業のお家芸だとも言えます。 AI活用やAIを使ったBPRを「ホワイトカラーの現場を自動化する活動(ホワイトカラー生産性革命)」と捉えた場合、大いなる可能性が待っています。前章にも記したように日本の労働生産性はとても低い水準です。労働生産性が低い理由として、成果よりも「時間」による評価が重視されることや、まだ年功序列な文化がありジョブ型雇用のような専門性に基づく適材適所がされてないこともありますが、やはり、デジタル化の遅れが大きな要因です。 IT投資自体も少なく、ITを活用するための人材組織への投資も少ないため業務効率化が進んでいません。しかし、今こそ「AIを戦略的に経営に組み込む」「ホワイトカラーの現場を自動化する活動」をすることで必ず日本企業の生産性は劇的に向上しOECD加盟国の中でも上位を狙うことができるはずです。生産性が向上するということは、より少ない労働時間や労働者でより多くの付加価値を作り出せるということなので、社員は当然ながらお客様やパートナーなど全てのステークホルダーに豊かな生活を提供できます。
ぜひ、AIを「導入する」から「経営に組み込む」ことにチャレンジしてください。
付録:AI導入準備度チェックリスト
本チェックリストを使って、貴社のAI導入準備度を評価してください。
各項目を5段階で評価し、合計スコアで準備度レベルを判定できます。評価基準は、5点=完全に整っている、4点=概ね整っている、3点=部分的に整っている、2点=検討中、1点=未着手の5段階です。
自社の状況を客観的に評価するだけで解決への第一歩となります。
QueryPie AI社は、貴社のAIトランスフォーメーションの支援をすることができますのでお気軽にお問い合わせください。ご相談をいただく際、より効果的なミーティングにするために、このAI導入準備度チェックリストを実施いただきご提出いただくことを推奨しています。
【1】経営層のコミットメント(配点:各5点、小計25点)
| No. | チェック項目 | 評価 (1-5点) |
|---|---|---|
| 1.1 | 経営トップがAI活用の重要性を理解し、明確に発信しているㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | |
| 1.2 | AI導入に関する明確なビジョンと目標(KGI/KPI)が設定されている | |
| 1.3 | 経営会議でAI活用が定期的に議題として取り上げられているㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | |
| 1.4 | AI推進責任者(CxO、部門長レベル)が任命されているㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | |
| 1.5 | 失敗を許容し、学習を重視する姿勢が経営層から示されている | |
| 小 計 | ㅤㅤㅤㅤ/25 |
【2】予算確保(配点:各5点、小計20点)
| No. | チェック項目 | 評価 (1-5点) |
|---|---|---|
| 2.1 | AI導入のための専用予算が確保されているㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | |
| 2.2 | 初期投資(PoC・パイロット)の予算が承認されているㅤㅤㅤㅤ | |
| 2.3 | ライセンス費用(生成AI等)の継続的な支出が計画されているㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | |
| 2.4 | 外部専門家(FDE等)の活用予算が確保されているㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | |
| 小 計 | ㅤㅤㅤㅤ/20点 |
【3】人材リソース(配点:各5点、小計25点)
| No. | チェック項目 | 評価 (1-5点) |
|---|---|---|
| 3.1 | AI活用を推進する専任チーム・担当者が配置されているㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | |
| 3.2 | 社内にAI/データサイエンスの基礎知識を持つ人材がいるㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | |
| 3.3 | 従業員向けのAIリテラシー教育プログラムが実施(予定)されているㅤㅤㅤㅤ | |
| 3.4 | 外部専門家(FDE、コンサルタント等)との連携体制があるㅤㅤㅤㅤ | |
| 3.5 | 技術移転・内製化を見据えた人材育成計画があるㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | |
| 小 計 | ㅤㅤㅤㅤ/25点 |
【4】データ整備状況(配点:各5点、小計20点)
| No. | チェック項目 | 評価 (1-5点) |
|---|---|---|
| 4.1 | 個人PC内を含め、自社が保有するあらゆるデータの所在と種類が把握されている | |
| 4.2 | 業務データの全てが電子化されている | |
| 4.3 | データアクセス権限とセキュリティポリシーが整備されている | |
| 4.4 | データ品質(正確性、最新性)が一定レベル以上に保たれている | |
| 小 計 | ㅤㅤㅤㅤ/20点 |
【5】組織文化の準備度(配点:各5点、小計30点)
| No. | チェック項目 | 評価 (1-5点) |
|---|---|---|
| 5.1 | 新しい技術やツールの導入に対して前向きな雰囲気があるㅤㅤㅤㅤ | |
| 5.2 | 部門間の連携・協力体制が機能している | |
| 5.3 | 失敗から学ぶ文化があり、チャレンジが奨励されているㅤㅤㅤ | |
| 5.4 | 現場社員がAI活用の必要性を理解し、関心を持っているㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | |
| 5.5 | 業務プロセスの見直しや変革に対する抵抗が少ないㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | |
| 5.6 | 経営層と現場のコミュニケーションが円滑であるㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | |
| 小 計 | ㅤㅤㅤㅤ**/30点** |
総合評価
| カテゴリー | 獲得点数 | 配点 |
|---|---|---|
| 【1】経営層のコミットメントㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | ㅤㅤㅤㅤㅤ点 | 25点 |
| 【2】予算確保ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | ㅤㅤㅤㅤㅤ点 | 20点 |
| 【3】人材リソースㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | ㅤㅤㅤㅤㅤ点 | 25点 |
| 【4】データ整備状況ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | ㅤㅤㅤㅤㅤ点 | 20点 |
| 【5】組織文化の準備度ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | ㅤㅤㅤㅤㅤ点 | 30点 |
| Total Score | ㅤㅤㅤㅤㅤ点 | 120点 |
診断結果と推奨アクション
| 総合スコア | 評価レベル | 診断 | 推奨アクション |
|---|---|---|---|
| 96-120点 | A | 準備完了 | AI導入の準備が整っています。すぐにPoCフェーズ(ステップ4)に進むことを推奨します。 |
| 72-95点 | B | 準備良好 | 概ね準備できていますが、一部改善が必要不足領域を3ヶ月以内に強化してから本格導入へ。 |
| 48-71点 | C | 要改善 | 複数の領域で改善が必要です。経営層の巻き込みと予算確保を優先し、6ヶ月の準備期間を設定。 |
| 24-47点 | D | 準備不足 | 基盤整備から始める必要があります。経営戦略へのAI組み込みから着手し、1年計画で基盤を整備。 |
| 23点以下 | E | 未着手 | AI導入の前提条件が整っていません。まず経営層への啓蒙活動と戦略策定から開始してください。 |
優先改善領域の特定
スコアが低かった上位3項目を記入してください:
| 順位 | カテゴリー | 具体的な課題と改善案 |
|---|---|---|
| 1 | ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | |
| 2 | ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ | |
| 3 | ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ |
参考サイト
- https://www.pwc.com/us/en/tech-effect/ai-analytics/ai-agent-survey.html?utm_source=chatgpt.com
- https://kpmg.com/us/en/articles/2025/ai-quarterly-pulse-survey.html?utm_source=chatgpt.com
- https://survey.stackoverflow.co/2025/ai?utm_source=chatgpt.com
- https://www.deloitte.com/us/en/services/consulting/blogs/ai-adoption-challenges-ai-trends.html?utm_source=chatgpt.com
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