SaaSの終焉か、進化か 〜AIエージェント時代にSaaS企業が取るべき戦略〜
ホワイトペーパーを入手する 🚀
SaaSの成功とその終わりの兆し
2026年1月28日の日経新聞のWebサイトに「【SaaSの死】 業務ソフトにAI代替の荒波 4社時価総額15兆円消失」という見出しの記事が掲載されました。
その内容は、概ね以下のとおりです。
- SaaS企業の株価が、AIによる代替懸念から低迷している
- 米セールスフォースなど大手4社(インテュイット社、米アドビ社、米サービスナウ社)の時価総額は2025年末から1ヶ月足らずで15兆円減った
- ソフトの使い手が人からAIに代わり、事業モデルが揺らぐという警戒が強まる
- AI企業であるアンソロピック社の新サービス「Cowork」によって各社の株価急落
- SaaS各社も自社ソフトにAI機能の搭載を進めたり、AI技術をもつ新興企業と提携するなどして対策を進めている
ご承知の通り、SaaSとは「Software as a Service」の略称で、ソフトウェアを買い切るのではなく、インターネットを通じて毎月定額あるいは毎年定額で機能を利用するソフトウェアをサービスとして利用する仕組みのことです。2000年初頭からSaaSベンダーが現れ、CRM(Customer Relationship Management)をクラウド経由で提供したセールスフォース社はSaaSの先駆けとなりました。
SaaSが提唱される前は、ソフトウェアはパッケージとして購入し、個人はPCにインストールし、企業はデータセンターにあるサーバーにインストールして使っていました。つまり、オンプレミス環境でのソフトウェア利用が前提でした。
1995年のWindows95の販売を契機にインターネットが普及し、多くの個人も企業もインターネット上のコンテンツやサービスを利用することになり、1990年代後半はドットコムという熱狂の中にいました。
ソフトウェアを提供している全ての企業はオンプレミスで使うことを前提にしていましたが、通信インフラが発達しインターネットが急速に普及したことで、AmazonやeBayといったコンシューマー向けビジネスをしている企業は、インターネットを活用した新しいビジネスモデルで、街の本屋や小物販売店という業界を破壊し始めていました。しかし、エンタープライズソフトウェアの世界では何も変化がなかったのです。
セールスフォース社の創業者であるマーク・ベニオフは、ソフトウェアが物理的なパッケージではなく、インターネット経由で提供されるサービスになれば、大規模なサーバも不要になり、高額な初期投資もなくなり、月々の利用料だけで必要な機能を使えるようにすればいい。そうすれば、ソフトウェアをインストールすることや設定することも不要になり、常に最新機能をどこからでも利用できるようになる。ベンダー側としてもソフトウェアをCD-ROMに焼き付けて販売する必要がなくなる、機能拡張のたびに新しいCD-ROMを配布する必要もなくなりコストが大幅に削減できる。と考えたのです。
そしてこのように考えたマーク・ベニオフは、「ソフトウェアはもういらない(No Software)」という、刺激的なキャッチフレーズで、ベンダーによるソフトウェアの提供形態に変化をもたらし、一括払いから月額または年額の料金(サブスクリプション)という支払い方法に変化させ、ソフトウェアは資産計上ではなく、まるで電気や水道のような費用計上になるような財務的な変化をもたらしました。
今考えるとこれは大きな転換点でした。
これまでは高価だったソフトウェアを誰もが安く使えるという面では「ソフトウェアの民主化」とも言えましたが、SaaSが実現できた技術背景にはマルチテナントアーキテクチャ(1つのシステム基盤を複数の顧客企業で共有する設計手法)があり、SaaSベンダーからすると、インフラの運用コストを劇的に削減できたので、さらに低価格でのサービス提供が可能となり、マルチテナントアーキテクチャがベンダーにも顧客にも利点がある一挙両得となりました。
一方で、インターネットの向こう側(この時にはまだクラウドという言葉は一般的ではありませんでした)に、自社データを保存することを懸念する企業は多かったですし、インターネット通信が止まったらサービスを受けることができないけどその場合はどうするんだと考えましたし、SaaSベンダーが倒産したらどうするんだ?という疑問があり、自社でコントロールできないことへの抵抗感もありました。
なかなか普及しなかったセールスフォース社のCRMアプリケーション(サービス)でしたが、セールスフォース社が行っていたのはプレゼンテーションではなく、実際に動くCRMの画面を見せてデモンストレーションをすることでした。様々な理由で懐疑的な企業も、全社導入ではなく、部分的な導入、あるいは無料トライアルのような形で導入していき、セールスフォース社だけではなく他のSaaSベンダーも同様な手法で企業に受け入れられてきました。
セールスフォース社は「エンド・オブ・ソフトウェア(ソフトウェアの終焉)」というイベントを開催し、業界関係者、アナリスト、メディア、顧客を招待してSaaSの可能性というカテゴリーの認知を広げました。また、2000年にドットコムバブルが弾けて市場が冷え込んだことは一般市場には逆風でしたが、セールスフォース社やSaaSベンダーにとっては追い風になりました。これまでのソフトウェアの購入方法では高かったのですが、サブスクリプションという安価な導入が魅力的になり、従来のオンプレミスにおけるソフトウェア購入からの移行が進んだという皮肉な結果になったのです。
以後、SaaSは市場に認知され、これまではソフトウェアパッケージとしてオンプレミスで実現していたサービスが、インターネットを介して提供されることになります。
富士キメラ総研は2025年9月に、バックオフィスなど法人向けに提供するソフトウエア53品目を対象に市場規模を調査した「ソフトウェアビジネス新市場 2025年版」の概要を発表しました。2025年度はSaaS/PaaSの提供形態で前年度比10%以上伸長し、市場規模は3兆円を上回ると予想しています。

企業が使うソフトウェアは、オンプレミスでのパッケージ購入利用からインターネットを介した利用に変化したので、この20年は、SaaSベンダーこそがIT業界の主役であり、企業の仕事を支える基盤となり、SaaSはとても便利なサービスでこれらを活用すれば仕事の効率は上がりました。
SaaSがパッケージ購入とオンプレミスでの利用方法を市場から追いやったように、AIエージェントはSaaSを市場から追いやるのでしょうか?
結論から言うと、そのリスクはかなり高いということです。
実際に、資本市場はすでにこの変化を織り込み始めています。2026年1月30日時点で、SaaS企業のSAP・Adobeの株価は6ヶ月で約20%下落しました。一方、AIに積極的に取り組むTeslaは32%、Google(Alphabet)は73%上昇しています。また、OpenAIやAnthropicといった未上場のAI企業にも数兆円規模の評価がつけられています。資本の移動は、SaaS時代の終わりとAI時代の到来を明確に示唆しています。
AIエージェントとは何か(SaaSにおけるユーザー側の動作)
SaaSは大きなソフトウェアビジネスの転換点でしたが、実は利用ユーザーから見ればオンプレミスのソフトウェアとSaaSの操作性に大きな転換はありませんでした。
確かに、オンプレミスのパッケージソフトウェアだからできる動作やユーザーインターフェースもありましたが、今のSaaSはオンプレミスのパッケージソフトウェアの動作とほぼ同じ動作ができます。ですから、利用ユーザーは経費精算、CRM、SFA(Sales Force Automation:営業支援システム)、MA(Marketing Automation:マーケティング自動化)、ドキュメント作成などの作業をするときにSaaSの画面を開き、テキスト入力をし、プルダウンメニューから選択し、ボタンを押していました。
マイクロソフトEXCELで出来ることはGoogleスプレッドシートでも出来ることは、皆さんもご存知のはずです。
ただし、マイクロソフトEXCELもGoogleスプレッドシートも、あくまでも利用ユーザーである人間がオペレーションをしています。しかしながら、AIエージェントがあれば人間がオペレーションをする必要はなくなります。
ここで、皆さんが慣れ親しんでいる生成AIとAIエージェントの違いについて簡単に解説します。
生成AIとAIエージェントは、どちらも最新のAI技術ですが、その役割と動き方に大きな違いがあります。生成AIは優れた作り手・相談役なので、指示した通りのコンテンツ(テキスト、スライド、画像、動画、ソフトウェアコードなど)を作成しますが、自律性はなく利用者の要求にその都度応えるイメージです。
一方、AIエージェントは、自律して動く実行役なので、検索するとか予約するとか集計するとか何かしらの目標を達成するためにタスクを実行しますし、自律性があるのでその目標を達成するために自分で計画を立てて動作し、完了するまでプロセスを継続します。端的に言えば、生成AIは具体的に指示したことしか実行しませんが、AIエージェントは漠とした指示でも優秀な人間のように結果を出します。
例えば、「このフォルダにある領収書の画像を基に、経費登録して、この四半期の部門毎の経費利用リポートを作成して、経費予算をオーバーしている部門長に経費利用レポートを添付して対策依頼メールを送ってください。部門長から返信があった場合は、その部門長の対策について評価検討して教えてください」というような話し言葉で指示を出すと、AIが社内のデータベースや、自分の端末のデータ、メールサーバーにアクセスして必要なデータやファイルを確認して数分で実行してしまいます。
ここでは具体的にどのようなAIエージェントがどのような振る舞いをして実行するのかまでは書きませんが、上記のような指示を自分のアシスタントや各部門長に指示する時のステップを考えるとかなりの量になり、これまでは、このような業務を人間がSaaSを使って処理してきました。AIは生成AIのように人間のサポート役から実行者というAIエージェントに進化し始めているのです。
UI中心の業務は消える
経営者あるいはプロダクトマーケティング責任者、事業責任者、技術責任者であれば、このような自然言語で処理できるのであれば、これまで利用者の利便性のために頑張って開発してきたユーザーインターフェース(UI)やユーザーエクスペリエンス(UX)なんて必要あるのか?と疑問に感じると思います。
当社の経験では、その必要性は急速に薄れていくと考えています。
人間が操作するという前提があったので、押しやすいボタン、見やすいメニュー、わかりやすい動作、入力しやすい設計をしてきましたが、人間が操作するという前提がなくなれば、これらの努力は不要です。例えば、これまでの画面とAIエージェントに対応した画面はこのように変わります。

人間が操作しないのであれば、見栄えの良いインターフェースも使いやすいボタン配置も、価値がなくなります。企業がSaaSにお金を払っていたのは、社員がSaaSを使って生産性を上げるためでしたが、AIが欲しい結果を簡単に出してくれるなら、お金を払ってSaaSベンダーと契約して社員に使い方を学習させる必要はなくなります。
SaaSベンダー側から見ても同じように言えます。自社の顧客が自然言語で指示することが一般的になるのであれば、これまで努力してきた見栄えの良いUI/UXへの投資は必要なくなります。上記の「AIエージェントに対応した画面」だけを作って、AIを搭載すれば良いのです。
一つのSaaSであれば上記のような画面になりますが、今後は複数のシステムの画面や複数のSaaSの画面は不要になります。例えば以下のようになります。

このように社内の全てのシステムあるいはデータベースにアクセスして、人間が自然言語のインターフェースで指示すれば業務が進むのであれば、これからは人間がシステムのメニューやコマンドを覚えるのではなく、システムが人間の言葉を理解するようになるわけです。
再度の例え話になりますが、あなたが部下に「来月の販促キャンペーンの計画を立てて実行しておいて」と指示するようにAIエージェントに指示します。するとAIエージェントは具体的に何をするのでしょうか?概ね次のような処理をすると想像できます。
- 過去の販促キャンペーンの計画の実行結果のデータを分析
- その中でも似たような経済環境、似たような顧客層、似たような販促キャンペーンに特化して分析します
- 今回の販促キャンペーンに最適なターゲットを選定して顧客データベースから抽出します
- 販促キャンペーンのキャッチコピー、リードコピー、テキスト、キャンペーン内容、キャンペーン期間など全体設計を考えます
- 次にデザインAIエージェントが全体設計に従った広告バナーとメルマガの内容を作成します
- 数回に分けてSNSの投稿予約とメルマガ配信の準備をします
- マーケティング予算管理システムに今回の販促キャンペーンの予算と必要な売上などを入力して目標となるROIを設定します
ここまで来て、あなたに「販促キャンペーンの準備が整いました」と報告がきます。
過去分析、全体設計、広告デザインなど様々なステップの成果物をチェックしてよければ承認して進めます。1から7までの処理において指示した人間は何のSaaSツールも使っておらず、優秀な部下であるAIエージェントが他のAIエージェントと連携して仕事を完成させるわけです。
あくまでも予想ですが、多くの企業が独自のAIエージェントを持つことになり、企業はSaaSやシステムを使うという感覚から、有能なデジタルチーム(AIエージェント群)を開発して活用することになります。有能な社員は、臨機応変に様々なことができるかもしれませんが、実際には、営業、技術、マーケティング、ビジネス開発、ブランディング、財務、会計の全てにおいてプロフェッショナルであることは無理なので、チームとして組織化して業務にあたります。
これと同じで、当初はAIエージェントも業務に特化すると思いますが、次第に業務に特化したAIが自律的に連携して動作するようになり、まるで、各業務の天才だけで構成されたチームを従えるのと同じことが起きます。
アプリケーションという概念の崩壊
アプリケーションとは、ユーザが個別の用途で利用するために開発されたものです。
あまりに当たり前すぎて今更そのようなことを意識したことはないと思いますが、メールをするならメールソフト、文書を書くならワープロソフト、プレゼンテーションスライドを作るなら・・・、表計算なら・・・、経費精算なら・・・、情報共有なら・・・、プロジェクト管理するなら・・・とそれぞれのアプリケーションを起動して処理してきました。
ところが、AIエージェントが普及するとユーザーがやりたいことが複数のアプリケーションを起動しないとできないことであっても、「アプリケーションを選ぶ」という意識がなくなるかもしれません。
先ほどの「来月の販促キャンペーンの計画を立てて実行しておいて」に必要なアプリケーションは、CRM、BIツール(Business Intelligence:経営判断支援ツール)、分析アプリケーション、テキスト作成ソフト、プレゼンテーション作成ソフト、デザインソフト、メルマガソフト、予算管理ソフト、売り上げ管理ソフト、プロジェクト管理ソフト、メールソフトなどが考えられます。
この指示を完遂するのに利用者は、どのアプリケーションを使ったかを意識する必要がありません。アプリケーションはAIエージェントの裏側で動くサービスになり、私たちの目には触れなくなるのです。
この変革は相当大きく、インターネットの登場と同じぐらいではないかと思います。
コンピューターが登場して以来、人間はコンピュータの操作方法を勉強し続けてきました。もう慣れているのでわからないかもしれませんが、キーボードの打ち方、マウスのクリックなど、最近ではスマホのジェスチャー入力など私たちは多くの時間をコンピューターやデバイスの学習に費やしてきました。
しかしAIエージェントが主流になると学ぶ必要性が少なくなると考えられます。人間に指示するように自然言語でテキストだったり音声だったりで指示すればいいのです。そうなると、老若男女誰もがコンピュータリソースを簡単に使うことができるようになります。
AIエージェントがSaaSというビジネスモデルやUI/UXに大きな影響を与えることは避けられませんが、違う側面から見ると人間の創造性の重要性が増すのだとも言えます。UI/UXやシステムの構成、データベースの定義ということではなく、「なぜ、それをやるのか?」「何を作り出すのか?」という根源的な目的に正面から向き合えるようになるのです。
これはSaaSベンダーにとっては絶望的な話でしょうか?当社は「そうではない」と考えます。SaaSベンダーで働く社員の創造性の発揮が求められる時代に突入したのだということです。
AIエージェント時代の働き方と組織
AIエージェントが自律的に働き、アプリケーションの操作も不要になるなら、人間のやることは殆どなくなるのではないかと思います。しかし、現在のところ「AIエージェントには意志がない」ことを考慮する必要があります。
「来月の販促キャンペーンの計画を立てて実行しておいて」と指示すれば自律的にやってくれるでしょう。
「進捗が遅れているプロジェクトを立て直して」と指示すれば自律的にやってくれるでしょう。
「ダイレクトマーケティングを最適化して」と指示すれば自律的にやってくれるでしょう。
「SNSを通じて案件獲得して」と指示すれば自律的にやってくれるでしょう。
このような指示で自律的に動作するAIエージェントは、とてつもなく速く正確にアウトプットを出せますが、「AIエージェントには意志がない」のです。「何のためにそれをするのか」という全体的な意思を持つことはできないのです。
これからのSaaSベンダーに求められるのは、あるいはビジネスパーソン全体に求められるのは、生成AIの使い方を覚えるのではなく、ましてExcel関数を覚えることでも、プログラミングコードを書くことでも、マーケティング知識を得ることでもありません。
「何のためにそれをするのか」という"問いの設定"と、「複数のAIエージェントにやらせるためには何をすれば良いのか」という"全体像やアプローチ方法を指し示す"ことです。そして、AIエージェントが出したアウトプットの品質を監督し、"最終的な責任"を持つことが必要です。
人間にしかできない役割
「何のためにそれをするのか」という問いの設定
「AIエージェントには意志がない」と前述しましたが、それはAIエージェントには主観的な価値観が欠如しているからです。AIはあくまでもソフトウェアプログラムであり、プログラムコードとデータによって最適解を出す存在です。「お腹が空いたから」「愛されたいから」といった人間らしい根源的な欲望を持ちません。AIエージェントのアウトプットは外部から入力された反応であり、自発的に「これを成し遂げたい」という意志を持つことは(今のところ)ありません。
そして、AIエージェントは効率的に遂行することについては人間を何百倍も上回りますが、なぜそれをするのか?を決定するのは人間にしかできないことです。「問いを立てる」ということは、その結果に対して責任を負うことと同義です。AIエージェントは結果に責任を取ることができません。これについては後述の最終的な責任の箇所で解説します。
全体像やアプローチ方法を指し示す
AIエージェントはあっという間に多くのアイデアや資料を作ることができますし、24時間365日休みなく作業をすることができます。しかし、アウトプットされた中からどれが自分の望む文脈に最適か、どれが人の心を動かすかを選ぶのは人間の感性であり経験です。
会社やビジネスは論理だけで動いているわけではありません。人間の感情、社内の政治的な事情、社会の空気感、今ここにある感覚など数値化しにくい文脈を読み取り、AIの提案がその文脈に合っているかを判断する必要があり、これらは人間にしかできない高度な能力です。AIに対して、人間の言葉でフィードバックし、磨き上げる力が問われるわけです。
最終的な責任
AIエージェントは結果に責任を取ることができません。「AIエージェントがそう言ったのでやりました」は現実の世界では通用しません。つまり、最終的には、倫理的・社会的な判断を伴う領域には踏み込めないのです。なぜなら、AIエージェントは「身体(感情)」が無いですし「当事者意識」を持たないソフトウェアプログラムだからです(今のところ)。
AIと会話していると文脈を扱える気がしますが、AIはあくまでもソフトウェアプログラムに基づいたデータの出現確率やパターンに過ぎませんので、例えば「雨」という言葉から連想される言葉をAIは瞬時に100個ぐらい出せますが、人間が感じる「雨と特定の経験や記憶とのつながり」というような重層的で物語的な意味を解釈することは難しいのです。
一方、人間は、自身の経験や感情、社会的な背景から物事に多面的な意味を見出すことができます。意味付けとは、自分に起きる出来事や経験、環境に対して、主観的な価値・目的・意義を見出し、解釈を付与するプロセスです。「なぜこれが必要か」というような問いに対し、意味づけをして、個人の美意識や哲学で判断する感覚は、自我を持つ人間にしか備わっていません。
ですから、「問いを立てる」ということは、その結果に対して責任を負うことと同義であるため、人間は最終的な責任を取ることが必要なのです。
AIエージェント時代に何から始めればいいのか?
このホワイトペーパーをお読みになっているあなたが望んでも望まなくてもAIエージェントが主人公となる時代はやってきます。ですから、何かしらスタートすることです。
あなたが想像力を発揮すれば、殆どの業務(作業)において多かれ少なかれAIを組み込むことができます。ですからAIプラットフォームを使ってAIやAIエージェントに触れて、何ができるのか?何ができそうなのか?を想像することから始めてみてはいかがでしょうか?使っているうちに、何かしらヒントが掴めるかもしれません。
他方で、個人の人間力、そして人間力ある社員で構成される企業としての総合力を高めることが重要です。AIエージェントが進化して普及すれば、相対的に人間の価値が上がります。AIにできることや理解できることと人間にしかできないことが明確になります。例えば、身体感覚や五感などを深く理解する必要があり、共感、直感、感性などが強力な能力になります。
当社CEOは、自社の変革経験を踏まえ、企業がAI Nativeへ転換するために必要な条件を3つに整理しています。
1. 経営トップが変革を主導する
ビッグデータやクラウドの時代には、専門家を採用すれば技術のアップグレードは可能でした。しかしAIの導入は、組織文化やビジネスモデルそのものを変える取り組みです。CEO・役員がAIの可能性と限界を自ら体験し、深く理解した上で変革の方向性を示す必要があると当社は考えています。専門家任せでは、この規模の変革は実現できません。
2. 既存の前提を大胆に問い直す
新しいものを手に入れるためには、既存の前提を見直す覚悟が求められます。当社自身も、7年間築いたセキュリティSaaS事業の延長線上ではなく、AIプラットフォーム事業という新たな方向へ舵を切りました。検討に時間をかけている間にもAIは進化し、新しい競合は生まれ続けています。当社の経験から言えることは、綿密な計画策定に時間をかけるよりも、小さく速く実行し、失敗から学ぶサイクルを高速で回す方が、結果としてより確実に前進できるということです。
3. 常にアンテナを張り、実際に使ってみる
毎日、新しいLLMモデル、新しいAI製品、新しい技術が登場しています。当社では、最新のAIニュースを30分ごとに収集・整理・翻訳してSlackに配信するAIエージェントを社内で運用しています。しかし情報を「知る」だけでは不十分です。実際にAIツールを使い、何ができるのか・何が自社の課題解決に使えそうかを体験することが、意思決定の質を根本から変えると考えています。
QueryPie AIの変革 ― 自らの「SaaSの死」を乗り越えた実録
ここまで、AIエージェントがSaaSに与える影響と、人間に求められる役割の変化について述べてきました。ここからは、当社QueryPie AI自身が、SaaSベンダーからAI Native企業へと変革した実録をお伝えします。
当社は2017年にシリコンバレーで創業し、7年間にわたり企業向けセキュリティ製品を提供するSaaSベンダーとして事業を展開してきました。韓国市場ではユニコーンスタートアップの80%に導入いただくなど一定の成果を上げていましたが、この事業には構造的な課題がありました。セキュリティ製品の販売は保守的な意思決定者を相手にするため、開発工数に対して販売価格を十分に確保しにくく、ROIの観点から成長の天井が見えていたのです。
2022年11月、GPT-3.5とChatGPTが登場し、わずか4ヶ月後にはGPT-4が発表されました。これまで築き上げてきた「IaaS、PaaS、SaaS」という境界線が崩壊し始めた瞬間です。多くの企業と同様に、当社もまず既存製品にAI機能を搭載して付加価値を高めようと考えました。しかし、当社CEOの判断はそこから大きく転換することになります。
MCPとの出会い ― 「既存製品の改善」では不十分だと気づいた瞬間
転機となったのは、2024年11月にAnthropicが発表したMCP(Model Context Protocol)でした。
MCPが登場する以前、LLMは自ら学習した知識とWeb検索を組み合わせた「賢いチャットボット」に過ぎませんでした。しかしMCPにより、LLMは社内のデータベース、サーバー、インフラ、業務アプリケーションにAPIを通じて直接接続し、ソフトウェアを「操作」できる存在へと進化しました。
当社CEOはMCPに触れた瞬間、「既存製品の改善ではなく、まったく新しい製品を作らなければならない」と確信したと言います。この判断が、当社のAI Native企業への変革の出発点となりました。
AI Native開発体制の構築
新製品を開発するにあたり、当社CEOがまず着手したのは、AI活用に最適化された開発体制の構築です。
機械学習の経験者、高速開発の能力を持つ人材、新しいAIツールの活用に積極的な人材を中心に精鋭チームを編成しました。初期は約10名の少数精鋭です。AIツールの選定においても、当社の経験から得た重要な教訓があります。Devin、Windsurf、Cursorなど複数のAIコーディングツールを、チームごとに異なるツールを割り当てて並行評価しました。
例えばDevinを10名、Windsurfを10名、Cursorを10名というように分け、それぞれの長所と短所を相互に理解するようにしたのです。その結果、LLMのAPIを利用して製品を構築するツール(CursorやWindsurfなど)は、LLMを自社で開発・保有する企業が提供するツールの進化速度には追いつけないという知見を得ました。現在、当社では全社員がAnthropic社のClaude Codeを使用しています。ビルトイン機能とプラグインの成長速度が圧倒的であったことが決め手でした。
ここで特筆すべきは、すべてのAIツールを月額契約で維持するという方針です。年間契約であれば10〜20%のコスト削減が可能ですが、AI領域では「1年後」は永遠に近い未来です。明日、より優れたツールが登場するかもしれません。いつでも乗り換えられる「自由」こそが、割引以上に価値ある資産であるというのが当社の考えです。
ソースコード100% AI生成 ― 開発者の役割はどう変わったか
この精鋭チームは、わずか2週間でMCPを接続したAIチャットの最初のプロトタイプをデモしました。
現在、QueryPie AIの全製品において、ソースコードは100%AIが生成しています。開発者の役割は、コードを書くことから以下の3つに変わりました。
- 仕様(Spec)を明確にする
- テストコードの正しさを確認する
- 結果が期待通りかチェックする
QAも従来のホワイトボックス/ブラックボックステストを直接行う方式から、Claude Codeで開発者のコードを再確認し、Playwrightと連携してテストを自動化する方式に移行しています。
デザインプロセスも根本から変わりました。かつてはFigmaでデザインを制作し、フロントエンドエンジニアがReactで実装するという工程を踏んでいましたが、現在はブランディングガイドをClaude.mdファイルに詳細に記述し、AIがUIを直接生成します。デザイナーの役割は、UI制作からブランディングガイドの設計とAIが生成しにくいアイコンや細かな画像の制作へとシフトしました。
この変革の結果、開発速度は従来の3倍に向上しました。以前は2〜3名で行っていた業務を、1名がAIとともにこなせる体制が実現しています。
セキュリティ企業からAIプラットフォームへ ― 戦略の転換
新しい製品のポジショニングを検討する中で、当社CEOが着目したのはSalesforceに代表されるエコシステム型のビジネスモデルでした。すべての機能を自社で開発するのではなく、AIエージェントを構築できるプラットフォームを提供し、顧客企業が自社のニーズに合わせて活用できる環境を整える戦略です。
このプラットフォームでは、多様なLLMへの接続、MCP、Skill、RAGといった中核機能を実装しています。特にMCPについては、接続するツールが増えるとLLMのコンテキストウィンドウを圧迫するという業界共通の課題に対し、ツールをVector Embeddingした上で、必要な時に必要なツールだけを動的にロードする「Smart MCP Tool Discovery」という独自の仕組みを開発しました。
RAGについても、文書の種類・言語・ファイル形式によって性能が大きく異なるため、VLM、OCR、AWS Bedrockなどさまざまなモデルを組み合わせ、日本語・英語・韓国語の3言語で高い精度を実現しています。Skillの実行についても、k8sのSandboxを動的に生成し、隔離された環境で安全に動作するよう設計しています。
「動くもの」で信頼を勝ち取る ― 最初の顧客獲得
プラットフォームを開発しても、当初は販売が容易ではありませんでした。AIエージェントの構築にはLLMの特性理解、データの精製、セキュリティへの配慮が必要であり、「プラットフォームがあるので使ってください」だけでは顧客の行動を変えられなかったのです。
転機は2025年7月、ある大手BPO企業との出会いでした。グローバル企業を含む多数の企業に給与計算サービスを提供し、毎月100万人以上の給与計算を行うこの企業は、「AIで業務を変革したいが、何から始めればいいかわからない」という課題を抱えていました。
当社CEOは自ら現地に赴き、約10日間滞在してプロトタイプを開発しました。当社のAIプラットフォームだけでは実現できない部分はオープンソースを組み合わせ、アイデアが実際に動くことを証明することに注力しました。「動くもの」を見せることで信頼を獲得し、約1ヶ月後にAI製品としての初めての契約締結に至りました。
まとめ
「SaaSの死」という衝撃的なトピックから始まり、AIエージェントがもたらす未来、そして当社自身の変革の実録をお伝えしてきました。
米国SaaS企業の時価総額が15兆円消失し、この波は日本市場にも確実に伝わっています。日本のSaaS企業の直近の株価を見ても大きく下がっている状況です。

しかし、当社はこれをSaaSベンダーにとっての終わりではなく、大きなチャンスと捉えています。
確かにAIエージェントはコンピューターの使い方の未来を変えてSaaSベンダーのビジネスに大きな影響を与えると思いますが、SaaSベンダーも過去のソフトウェアパッケージというビジネスに大きな影響を与えました。SaaSになったことによって新興企業も生まれましたが、ソフトウェアパッケージベンダーがSaaS化して生き残った例はたくさんあります。つまり、これはSaaSベンダーにとって大きなチャンスです。ライバルから一歩先に行くチャンスなのです。
ビジネスにおいてもテクノロジーにおいても必ずイノベーションは起きます。必ずしもイノベーションを起こす必要はなく、イノベーションに従うことも必要です。過去のビジネスモデルやビジネスシステムに固執するのではなく、イノベーションし続けること、イノベーションに適応し続けること、昨日までの常識を捨て、新しいテクノロジーを面白がることがとても大切です。少なくともAIエージェントはSaaSベンダーにとって強力な武器になります。
是非、貴社のサービスにAIエージェントという武器を実装してください。
全文を読む
フォームに入力後、限定コンテンツをご覧いただけます。
